2022年の共通テストは、大きな衝撃を受験生にもたらしました。その最たるものが数学の大幅な難化です。過去最低の平均点を記録した数学の点数が、多くの受験生に心理的な動揺を与えたのは記憶に新しいところです。
ここで気になるのは、来年2023年度の数学の難易度です。来年度の共通テストを受ける受験生としては、2022年度レベルの問題に対応できるよう特別な対策に時間をかける必要があるのか、それとも2022年度はいわば例外的な年であるとしてより標準的な従来のセンター試験レベルの問題を演習の中心に据えるのか、そもそも共通テストの数学の対策のためにより多くの力を注ぐべきなのか、それとも他の科目に注力した方がよいのかなどの問題に対する結論が導き出せます。予想が当たった場合の破壊力は大きく、特に逆転合格を狙う場合には戦略上の重要な分岐点になります。
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難易度の予想は、受験生にとって大きな意味がある
よく受験生が勘違いすることですが、簡単な問題と難しい問題とを比較した場合、満点が続出するほどの易しさでない限り、実は簡単な問題の方が標準偏差は大きくなる傾向があります。わかりやすくいえば、得点のバラつきが大きくなり、できる子とできない子の差が開くということです。逆に、難問であればできる子とできない子の得点差は小さくなる傾向があり、合格に寄与する係数はその分低くなります。つまり、当該科目が苦手な受験生にとっては、実は難問である方が都合がいいのです。
このため、数学の難易度が仮に今年と同じくらい難しいのであれば、数学の苦手な受験生にとってはチャンスとなります。反対に数学が得意な受験生にとっては不利になります。もちろん圧倒的に数学が得意な子にとっては、問題が難しいほど自分だけが極めて高い点数を取り他の受験生に大差をつけるチャンスが生まれますが、ここではそのような特殊な子を想定せず、一般的なケースで考えます。
仮に数学が今年と同じくらい難問であれば、共通テスト対策においては数学よりも他科目に力を入れた方が期待される得点効率はよくなるでしょう。なぜなら、問題が難しければ得点のバラつきが小さくなり、結果として得意な子と苦手な子とで大きな点数の開きが生じにくくなるからです。逆に数学が易化するのであれば、数学により力を入れておく必要があります。上に述べたように、問題が簡単な方が標準偏差、すなわち得点のバラつきが大きくなり、数学で点が取れないことが大きなハンデとなってしまうからです。
したがって、来年度の共通テストの難易度を事前に予測することは、受験生にとって大いに意味があります。事前に難易度を適切に予測することができれば、時間的リソースをより効率的に配分することができるからです。難化が予想される科目はやや控えめに、逆に易化が予想される科目には力を入れておくというふうに、得点効率の観点から合理的な決定ができるようになります。
もちろん、全科目につき満遍なく入念な準備をした上で当日を迎えることが理想です。しかし、そのような完璧な準備ができる受験生は希です。そして、大前提として、大学受験では文系理系・国立私立を問わず、最優先すべき科目は英語です(参照:【大学入試】文系理系に関わらず、英語を最優先すべき3つの理由)。これを大前提とした上で、なお共通テストへの対策のための時間を、各科目においてどのように配分するのがより効率的であるかという問題であることに注意してください。
この点を踏まえた上で、2023年度の共通テスト数学の難易度を具体的に予想していきましょう。
結論:数学は易化する可能性が極めて高い
根拠:問題評価・分析委員会は、22年数学の難易度を「やや不適切」としている
この問題を考える重要な資料として、問題評価・分析委員会による報告書があります。独立行政法人の大学入試センターでは、問題評価・分析委員会が試験問題の分析と評価を毎年行っています。
令和4年度大学入学共通テスト問題評価・分析委員会報告書(本試験)
注目すべきは、この外部委員会の問題評価です。この評価は1~4の四段階でつけられ、4であれば適切、逆に1であれば適切でないとされます。
(出典:独立行政法人大学入試センター 問題評価・分析委員会報告書)
これを見ればわかるように、今年度の数ⅠAの難易度について、要求される思考力・判断力・表現力と解答時間との観点から、やや不適切であるとする2の評価がつけられています。
センター試験や共通テストは公的機関が実施する試験であり、それゆえに外部の評価に晒されます。例えば現代文の試験や英語の読解の選択肢でも、ことセンター試験や共通テストに限っては必ず明確な根拠があります。なぜその選択肢が正確になるのかを問われたとき、言語化して外部機関や国民に説明できる必要があるからです。とはいえ専門家が一年の時間をかけて準備する試験ですから、そうやたらめったら問題を指摘されるわけではありません。そもそも外部審査機関も、大学入試センターの機関としての独立性を尊重し、慎重に評価する傾向があります。そのような中で、わざわざ「やや不適切」にあたる2をつけることは異例のことです。とすれば、大学入試センター側も、当然来年の試験については、難易度については慎重な姿勢を見せるであろうことが予想されます。つまり、来年の共通テストの数学は易化する可能性が高いと考えられます。
2023年共通テスト数学は、努力すれば報われる可能性が高い
数学の難易度が易化することは、数学が苦手な子にとって朗報のように聞こえるかもしれません。しかし、繰り返し述べているように、易問は標準偏差が大きくなる傾向があります。つまり、数学の易化は、数学の点数が合格に関係する割合が高くなることを意味します。逆に数学が得意な子にとってはその優位を生かしやすくなることを意味します。
これはまた別の機会に述べますが、逆に英語は難化すると予想しています。とすれば、共通テスト対策としてとれる余剰時間が生じた場合、その時間的リソースを英語よりも数学に投資する方が、リターンの期待はより高くなると思われます。
誤解のないように繰り返しますが、『【大学入試】文系理系に関わらず、英語を最優先すべき3つの理由』で述べたように、大学受験において最優先されるべきは英語です。本稿で述べている内容は、仮に共通テスト対策として英語に100時間、数学に70時間を費やす計画を立てておいたとして、余剰に勉強できる10時間が発生した場合には、その10時間を英語よりも数学に回す方がより高い得点リターンを期待できるという趣旨です。英語等の本来の勉強時間を削れといっているわけではありません。各科目の重要度に応じてやるべきことはやった上で、付加的な時間をどのように活用することが最も得点の期待可能性を向上させうるかということです。
易化の方向性
では具体的に、どのような方向に易化するのかを考えてみましょう。難易度を調整するには、主に二つの方向性があります。一つは制限時間に比して設問数を調整すること、もう一つは問題そのものの質を調整することです。この2点について、具体的にどうなると予想されるでしょうか。
設問数:減少する可能性が高い
再び令和4年度大学入学共通テスト問題評価・分析委員会報告書(本試験)を参照してみますと、以下のような言及とともに、問題構成については「ある程度適切」とする3の評価がつけられています。
(出典:独立行政法人大学入試センター 問題評価・分析委員会報告書)
先に述べたように、この評価は1~4の四段階となっています。2がつくことは異例であるにしても、この3という評価は実は珍しいものではありません。しかし、大学入試センターの自己評価書において、つまり外部審査機関の評価ではなく自己評価において、この外部審査機関の指摘を素直に受け止めているとみられる、以下のような記載があります。
(出典:独立行政法人大学入試センター 問題評価・分析委員会報告書)
ここにおいて、2022年度の数学ⅠAの問題点として「時間配分」と「計算量の多さ」が挙げられています。さらに「今回は、その考えるための時間が受験者にとって十分ではなかったと推察される」「1問あたりの配点を高くして問題量を削減することや、知識・技能と思考力・判断力・表現力等をバランスよく問うこと等、共通テストの趣旨が十分に表現される試験となるよう引き続き検討していきたい」とも述べられています。これを素直に解釈すれば、大学入試センターとしては、2022年度の問題数は、やや多すぎたと反省していると考えるのが適切でしょう。とすれば、設問数は減少すると予測します。
問題の質:数学ⅠA第1問[3](1)チツテのレベルはスムーズに解けてほしいと大学入試センターは考えている
では、問題の質はどうでしょうか。「易化する」といっても、選抜試験である以上、際限なく簡単になるわけではありません。具体的にどのレベルの問題が解けるようになっておく必要があるのか、ある程度の目安を設定しておく方が学習はスムーズに進みます。この点について、大学入試センターの自己評価書には以下の記載があります。
(出典:独立行政法人大学入試センター 問題評価・分析委員会報告書)
この記載を素直に解釈すれば、数学ⅠAの第1問[3](1)のソタのみならずチツテについて、出題のレベルとして理想的であり正答率がもっと高くてよいと考えていることが分かります。したがって、易化すると予想されるといってもこのレベルの問題を当然に解ける感覚をもてる学力は最低限要求されるということです。
この問題は、標準的な受験生なら「外接円の半径と三角形が与えられたから正弦定理だ」とすぐに思いつき、そのまま誘導に乗っていけば解ける問題です。これが分からないのは受験生として問題があります。スムーズに解けなかった方は易化うんぬんを考える以前の段階ですので、基礎固めの勉強をまずは必死になって行いましょう。
問題の質:共通テスト全体の流れを否定しているわけではない点に注意
注意してほしいのは、外部団体も大学入試センターも、事象を数理的にとらえ解決の思考過程を重視する、センター試験から共通テストへの問題傾向の変化自体を否定しているわけではない点です。これは以下の記述より読み取れます。
(出典:同報告書-日本数学教育学会の意見・評価より)
(出典:同報告書-高等学校教科担当教員の意見・評価より)
日本数学教育学会からは「共通テストにおいても~典型的であっても正答率が向上しにくい学習内容から出題を続けていただきたい」、高等学校教科担当教員からは「受験者には質の面でやや難易度が高かった問題も散見されたものの、~このような設問は必要である」との意見が述べられています。すなわち、問題そのものが不適切だといっているわけではないことによく注意してください。あくまでも、制限時間内での計算量の多さにおいて「やや不適切」だとの評価をくだしているわけです。
これはつまり、来年の共通テストの数学につき易化が予想されるといっても、従来のセンター試験タイプの問題に戻ることはないだろうことを示唆しています。
まとめ
以上を総合的に検討すると、問題そのものの難易度を落とすというよりも、出題数を減らし時間的な余裕を持たせ、また、誘導を従来よりも分かりやすく豊富に記載してくる形での易化である可能性が高いと考えられます。
従って、試行テスト・追試も含めた共通テストの過去問を、出題者の意図・思考パターンを読み取る意識で演習する重要性が下がることはありません。2022年の数学ⅠAの問題も、思考過程を読み取る意識で丁寧に復習しておきましょう。たまに、去年と同じ分野の問題は今年は出ない可能性が高いからと前年の試験問題の復習をきちんとしない子がいますが、これは愚の骨頂です。以前に別の稿で述べたように、共通テストは知能検査の専門家が問題作成に関わっており、知識的な意味で同じ問題はでないにせよ、知能検査的な意味での思考パターンはむしろ均一化されているといっていいほど繰り返し出題されます(参照:【大学入試】共通テストは知能検査の要素がある)。共通テスト数学では、得られた結果を次の問題でどのように意味づけするかに知能検査の手法を組み込んできています。前の問題の解答が次の問題を解く際にどのような手がかりになっているのかに注目して、共通テストの好む思考パターンを体得しておきましょう。