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流動性知能が高い人が学生時代に経験している3つの事柄

前回の記事、『「出世頭は東大でも早慶でもなく明大出身」は本当か?』で、流動性知能の重要性についてお話しました。高学歴者の一部には、高い結晶性知能をもちながらも流動性知能が低く、そのために思うように活躍できない人がいます。これはとてももったいないことです。

そこで本稿では、流動性知能が高い子が経験していることが多いのに対し、低い子が経験していないことが多い、三つの学生時代の共通点をお伝えします。

目次

流動性知能が高い人が学生時代に経験している3つの事柄

①一人旅や留学など豊富な海外経験

どこの国に行くかを決め、何月何日に出発するか予定を立て、交通チケットを取り現地に向かい、地図を見ながら目的地を探し、身振り手振りを含んだ外国語の会話を通じて食べ物を得て泊まる場所をみつける。これらは計画を立てそれを実行する過程の中で連続的に発生する想定外の事態を修正していくタスクです。

旅先は常に流動的状況ですから、あらゆる行動と決断とが流動性知能を高める訓練となります。普段と違う行動をしなければ食べるものも手に入らず、寝る場所も確保することができません。背水の陣に身を置くといいますか、動作性知能がフル稼働せざるを得ない環境に強制的に身を置くことで、その能力が鍛えられます。

最も良いのは、アジアやアフリカなどの発展途上国の地域をバックパッカーとして旅することだと思います。慣習も文化も異なる国で目にしたことがない光景を眺め耳にしたことが無い音をきくことは、脳内に電気が走るかのごとく強烈な刺激が生じます。これは社会人になってからではなかなか実行が難しいので、できるかぎり学生の内に経験しておきましょう。

もちろん、社会人になってから数日だけ海外に身をおくだけでも効果はあります。本格的に色々と体験することは難しいかもしれませんが、日常のパターン化した行動が一切通用しない流動的事態に対処せざるを得ない点では同じです。いつもと違う風景の中を歩き、いつもと違う店にいき、いつもと違う食べ物を食べ、いつもと違う言葉を話す。これだけでも全く違います。

留学経験も同じように動作性知能の向上に大きく貢献します。留学の場合、旅と違って目的がはっきりしているため、学校のタイムスケジュールなど一定の枠があり、また一般的に先進諸国であることが多く、その点では状況が固定的ですが、見知らぬ土地で毎日の起臥寝食をこなすという点では同じく流動的状況ですし、期間も長いことが多いので能力の向上に大きく寄与します。

②高度な外国語会話力の修得

相手の表情を読み取り、置かれた状況から適切な単語・文法・構文を組み合わせ、臨機応変にアウトプットしていく作業はまさしく流動性知能そのものです。また、語学力があがることで、海外を旅した際も他の国からのバックパッカーや地元の人々と交流する機会が多くなります。そうすると、相乗効果が生まれ、ますます流動性知能が高まっていきます。

大学受験では、共通テストによってリスニングの配点が大きく引き上げられたものの、あくまでも素点であり上位校においてはリスニングの点は大きく圧縮される傾向があります。また、スピーキングの能力となると受験では基本的には計られないので、英語資格を利用して出願するケースを除き、鍛える受験生はごく僅かでしょう。したがって、どんなに優秀な大学に合格したとしても、必ず大学入学以後はスピーキング・リスニングを鍛える必要があります。

これは、大学受験の英語の勉強が無意味だといっているわけではありません。学術論文をはじめ文章を読み解く点では、現在のリーディング重視の教育は無意味ではありませんし、将来の英語力涵養のためのしっかりとした土台になります。

ただ、英語で論文を読んだり書いたりは高いレベルでこなせても、英会話が全くできない人というのは珍しくありません。総じて、こうした人は流動性知能が低い印象があります。

英語を鍛えることで、流動的知能も鍛えられ、語学力という明確なスキルも身に付けることができます。

③臨機応変さとスピード感が求められるアルバイト経験

具体例を一つあげると、電話対応のオペレーターや受付業務は、流動性知能の良い訓練になります。書面とは違い、会話は常に状況が変化します。注意を聴覚に集中し、情報を適切に理解し、ときには非言語的な情報である相手の声色を読み取り、正しくこちらの意図を伝えねばなりません。

これは、こちらから電話を掛けるタイプの仕事ではなく、外部からかかってくる電話を受ける仕事の方がより効果が見込めると思います。一方的にこちらから情報を伝えれば事足れるのではなく、まずは先方の話す用件を聞き取り、それを受けてこちらからも質問をし意図する答えを引き出し、それらを適切に処理していく作業を繰り返す中で、聴覚的な情報を素早く理解し処理する能力が高まっていきます。

直接的な対面接客でもある程度の効果はありますが、圧倒的に効果が高いのは電話業務です。というのも、対面の場合、やはりお互い人間ですから、少しミスのあるやりとりをしても、なんとなく雰囲気でなあなあに甘く処理されることが多くなります。特に容姿に優れた女子などでは、それがかえって愛嬌と受け止められプラスに評価されることさえあるでしょう。しかし、これでは流動性知能の訓練にはなりません。

それに対し電話の場合は、聴覚からの情報に基づき素早く処理・判断をしなければならず、相手も顔が見えないのでこちらが失敗した場合に感情をストレートにぶつけてきやすく、甘えに基づくコミュニケーションが許されません。そのためミスが発生した場合に分かりやすく、後から検証ができます。流動性知能の訓練だと思ってがんばれば、きっとやってよかったと思うときが来ます。

また対面接客の場合、大規模なチェーン店では高度に洗練化されたマニュアルがあり定型的な行動様式でこなせてしまうこと、逆に小規模の個人店の場合は作業の自由度は高いものの処理すべき情報量がそもそも少ないので負荷がかからないことなどから、それほど流動性知能を使わなくともこなせてしまいます。それでもやらないよりはやった方がいいですが、能力を伸ばす観点からは圧倒的に電話業務に軍配があがると思います。

コールセンター業務や電話予約での受付業務などがお勧めです。最初は大変かもしれませんが、訓練と思って頑張りましょう。感情的な相手をあしらう訓練にもなりますし、大変な分、時給も一般のアルバイトと比べて高額です。

その他にも、工場や土木建設の作業業務も適しています。ただ、育ちのおっとりとした子や女性にはハードルが高すぎる面もあり、怪我をしては何にもなりませんので、ここでは電話対応のオペレーターを勧めておきます。

基本的には将来ホワイトカラーになる大学生にとって、いわゆる現場と呼ばれる場所で緊張感をもって働ける機会は実はかなり限られています。自己訓練をしつつお金を貰えると思えば、これほどありがたいことはありません。

もともと流動性知能が高い人がこれらの経験を積みやすいだけでは?という批判

これらの対処法を紹介すると、ある反論が返ってくる場合があります。卵が先か鶏が先か、すなわち「これらのことをしたから流動性知能が高いわけではなく、もともと流動性知能が高い人がこれらの分野に適性があり、適正があるからうまくこなせ、うまくこなせるから続けることができ、その結果として共通の経験を積んでいるのだ」という趣旨の反論です。実際、そういう側面もあると思います。

しかし、流動性知能が高い人と話をすると、最初はそれほど上手くできなかったが、頑張って続けた結果として能力が向上したと実感している人は多くいます。実際、これらの方法を紹介し実践させたことで性格や能力が大きく変わったケースを多く目にしてきました。私自身、海外バックパックの経験や英会話を習得したことで思考回路のダイナミズムが大きく変わった実感があります。社会人の中にも、学生時代にアルバイトをがんばって良かったと振り返る人は多くいます。

電話対応なんてストレスが多そうでいやだと忌避的にならず、また、留学や語学なんて"意識高い系"がやることだなどと斜に構えないようにしましょう。

論より証拠といいますか、まずはやってみることです。そもそも、やる前からあれこれメリットデメリットを考えること事態が結晶性知能優位の思考法です。もちろん結晶性知能それ自体は悪くないのですが、流動性知能が低いためにそれらを生かすことができないとすれば、本当にもったいないことですから、まずは動いてみることです。

今からでも遅くない!

大切なのは、定型的なパターンで対応できない状況に身をおくことで、臨機応変に対処する力を鍛えるということです。現在社会人をしており、時間的金銭的な余裕がなく海外を一人旅したり留学したりすることは難しく、業務も臨機応変な対応が求められるものでなくとも他に方法はあります。

大切なのは、流動的な知性が存在することを素直に認めること、そうした環境に身を置くことを怖がらないことです。変なプライドがあったり、恥をかくことを恐れると、流動的知性を鍛える機会がないまま時が過ぎ、結果として固定的な状況でしか対処できなくなります。

これらの①~③の中で社会人が最も気軽に始められるのは英会話です。リスニングとスピーキングは、それ自体が流動性知能が求められる勉強ですし、また英語を身に着けることで海外に積極的に出るモチベーションも生まれます。

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