大学入試

【大学入試】知能の適性に合った勉強方法をとることで効率は劇的に上がる

学業は高度に知的な作業ですから、当然に本人の知的資質と深い関係があります。とはいえ、知性とは極めて複雑な概念であり、また評価基準にも多重性があります。一元的な評価基準のもとで点数化しそれを正規分布させることで知能の相対的な高低を計ることができると単純に信じることは危険ですし、むしろそのように考えてはそれこそ本人の知的資質が疑われてしまいます。

しかしその一方で、長い間研究され、どの程度のことまでは分かりどの程度以上のことは分からないかについて、長年の統計的裏付けから一定の通説的見解が導かれていることもまた事実です。

大切なことは、知能とはどういうものかを理解した上で自分の認知の適性をできる限り正確に把握し、有利に学習を進める助けとすることです。

目次

知能検査

知能を計る手法の一つとして知能検査があります。現在、成人の知能検査で最も一般的なものは、ウェクスラー成人知能検査、通称WAIS(ウェイス)です。WAISは、16歳から89歳までを対象とし、精神遅滞や発達障害の有無がおおざっぱに分かるとされています。

WAISでは、合計15個の基本検査と補助検査とから構成され、それを言語理解知覚推理作動記憶処理速度の4つの群指数にまとめます。ここからさらに、言語性IQ動作性IQが算出され、総合評価として全検査IQが導き出されます。

・言語理解

言葉の概念をどのくらい理解しているかを示します。言語とは、外界の事象をある特定の角度から切り取った概念の塊ですから、言語理解が低いことは、当人が外界に対してもつ興味や関心に偏りがある可能性やそもそも外界の情報を秩序だって認識できていない可能性があることを意味します。

・知覚推理

目でとらえた情報から法則を見抜いたり先の流れを推測したりできるかを示します。簡単にいえば、パッと見てパッと分かるかです。「一を知って十を知る」という諺がありますが、知能検査風に言い換えれば「知覚推理の能力が高い」ということになります。知覚推理が低いと、 ある技法を習得してもその場限りで応用が利きにくい傾向が出てきます。

・作動記憶

集中して聞きその情報を短時間覚えて頭の中で操作する能力です。簡単にいえば、記憶しながら作業する能力です。作動記憶が低いと、一度に複数の情報が伝達された場合にうまく処理できない傾向がでてきます。

・処理速度

目から入った情報を素早く判断し、作業を処理する能力です。処理速度が低いと、大量の情報を処理することに心理的ストレスを感じやすくなります。

知能の特性を日々の学習に生かす方法

では、このウェクスラー成人知能検査を例にとって、知能の特徴に基づいて、どのように日々の学習を進めるべきかを具体的に紹介しましょう。これは私が教育現場にいた際に感じ、また実践していた方法で、確かな効果が認められたものです。

・言語理解

言語理解が低い場合は、分厚い参考書を何冊も読もうとすると疲弊しやすいので、薄い参考書にとどめ、その分問題演習を手厚くする方がスムーズに学習が進みます。また、言語理解が苦手な一方で知覚推理は高い場合は、図解や写真資料など非言語的な情報を積極的に取り入れながら学習を進めていけば、学習のモチベーションを維持しやすくなります。

逆に、言語理解が高いタイプは、問題を解くコツなどを言語化してノートや参考書に逐次書き込んでいくと、理解の到達度合が深くなります。特に知覚推理がそれほど高くないが言語理解が高い生徒が数学を習得する際にこの方法は効果を発揮します。また、このように知覚推理が低く言語理解が高い子が数学を学習する際は、解答を読んで理解したと思っても、解答を伏せた状態でもう一度解き直してみることが極めて重要です。こうした子は、無意識のうちに数学的発想にかかる部分を言語的に置き換えて理解しているケースがあるので、本当に数学的に式として解けるかどうか、時間が余計にかかっても自分の手で解答を実際に再現してみましょう。また、実況中継シリーズなど講義型参考書と相性が良いので積極的に検討することをお勧めします。

・知覚推理

知覚推理が低い子は、最初から多くの情報を取り入れるよりも、はじめは幹となるシンプルな考えや知識をおおざっぱに身につけることを意識した方がスムーズに学習が進みます。また、こうした子は、将来の見通しをイメージすることが苦手な傾向があります。先のことをイメージできなければ不安が引き起こされますから、精神的に安定せずモチベーションも湧かず、地道に机に座って学習に向かえなくなります。この場合、受験当日までのスケジュールを紙に書き出して可視化させることが効果があります。また、志望校のキャンパスツアーに参加するなど合格後の生活を具体的にイメージすることで、勉強の動機付けが大きく向上する場合があります。あるいは、就寝前などリラックスしている時間に、大学に合格してキャンパスライフを楽しんでいるシーンをできる限り細部に渡り感情を込めてイメージすることも効果があります。

言語理解が低い子は現代文が苦手な傾向が当然にありますが、そのような子で知覚推理が高いタイプは、接続詞をマーキングするなど文章構造の体系を図表化することで攻略しやすくなります。あるいは、解説のしっかりした問題集の中から自分の志望校と同じ傾向の問題を選び出し、その一題だけでもよいので解答のプロセスを丸ごと記憶しておき、そのプロセスを他の問題を解くときに思い出しながら解く方法も効果があります。言語理解が低く知覚推理が高い子の場合、純粋な言語処理として解くよりも具体的な素材との対照で解く方がその利点を発揮しやすくなるからです。

言語理解・知覚推理が共に苦手な子の場合、視覚や聴覚の刺激で覚えたり理解することが不得手な傾向があります。こうした子は、例えば英単語を覚える際でも、その単語が持つ意味を身体感覚で感じさせるとスムーズに頭に入る傾向があります。たとえば、monopoly(独占する)という単語を覚える際には、大きく手を広げてガバッと前のものを独占するような動きを実際にしながら記憶させるのです。身体的な動作と記憶・理解をリンクさせることで定着しやすくなる傾向があります。ただ、こうした子は、そもそも学業より職人としての適性がある場合もあるので、そうした進路を積極的に勧めるケースもあります。というのも、言語や知覚など知性の中心となる感覚が苦手な分、触覚や嗅覚や味覚などの身体感覚が発達しやすく、職人などに向く鋭い感覚を持つ傾向があります。

・作動記憶

作動記憶が低い子は、授業で説明の聞き洩らしをすることが多く、また板書を目にとらえてノートに書き写す作業が苦手なため目と黒板とを何度も往復させてしまい、筆記に時間がかかる割に理解が薄くなりがちです。このようなタイプの子は、生の講義よりも一時停止できる録画講義の方が学習が定着しやすい傾向があります。参考書を自分で読む場合は、殴り書きでよいので重要なキーワードを欄外にメモしておくことで、記憶の喚起がしやすくなり無駄な読み返しを減らすことができるようになります。またこうした子は、多数の情報に混乱し、いま自分が全体のどの部分を学んでいるかを忘れがちです。そこで、体系を把握するために、目次を常に参照しながら勉強するとスムーズに理解できるようになります。

それに対し作動記憶が高いタイプは、短期記憶を何回も繰り返すことで長期記憶への移行が容易ですから、ある分野を学習する際に、最初に前提となる記憶事項を詰め込む方法が可能です。よって、最初に記憶し、あとから理解する手順でも大丈夫です。具体的にいえば、英単語の学習においては、受験用の単語帳や熟語帳だけでよく、辞書を使って調べる作業は基本的にしなくても大丈夫です。一般的な子の場合、このようにすると単語のイメージがつかみにくくなるため辞書で例文等を参照する習慣がないとなかなか記憶が定着しないのですが、作動記憶の高いタイプは丸暗記した後で文法書や問題演習を通じて記憶の点と点とを後からつなぐ方法をとることができます。こうすることで勉強時間の大幅な短縮効果が生まれます。

・処理速度

処理速度が低いタイプは、あまり多くの問題をこなそうとすると精神的に疲弊する傾向があります。こうした子の場合、問題数は少なくとも解説が丁寧な問題集をじっくりやる方が高い効果を期待できます。また、他の能力は高いのに処理速度だけ低い場合、思考の内容が高度な割にアウトプットに時間がかかるため精神的ストレスを抱えやすく、気持ちが一度ダウンしてしまうと立ち直るまでに時間がかかります。基本的に受験生はできる限りの時間を勉強に費やすべきですが、このタイプはたまに気晴らしに遊んで発散させた方が最終的によい結果を生みます。

逆に処理速度が高いタイプは、薄い参考書を何回もやる定番的方法をとるよりも、次から次へと新しい問題集を解いていく方がモチベーションが持続し、結果として学力が上がりやすい傾向があります。

注意点

ここではWAISの4つの群指数をもとに知能を考えてみましたが、当然のことながら、知能をどうとらえるかについては様々な学説や検査方法があります。

また、IQ検査は、知能の弱点を探す目的には適していますが、知能の上限を計る目的ではいささか頼りない面があるともいわれ、学童期に非常に高度なIQを示した者のその後を追跡した調査では、実はそれほど顕著に社会的業績と結びつかなかったとする論文もあります。

いずれにせよ私がここでいいたいのは、知能検査それ自体ではなく、自分の知的資質に応じた学習方法をとれば有利に勉強を進めることができるところ、知能がどういったものかを考える際のモデルとして知能検査は役に立つということです。

一番簡単な方法は検査機関で臨床心理士に見てもらうことですが、2万円ほどかかりますので現役の高校生には少しハードルが高いと思います。ですので、WAISの知能のモデルを参考ししつつ、「自分は言語理解は得意だが、処理速度は遅いかもしれない」といった風に自己分析をして仮説を立て、それに適合した学習方法を試行錯誤し、修正を繰り返すとよいでしょう。目的はあくまでも学業成績を上げることであり、知能にまつわる知識はその手段でしかありませんから、それだけで十分な効果があります。日頃から知能に関する情報にアンテナを張ることで、色々な切り口で自己分析をする助けとしましょう。

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